プレスリリース「#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」について


「#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」について
〜クラシック音楽演奏会・音楽活動を安心して実施できる環境づくり〜

2020年6月22日
クラシック音楽公演運営推進協議会
一般社団法人日本管打・吹奏楽学会

「クラシック音楽公演運営推進協議会」「一般社団法人日本管打・吹奏楽学会」は、ヤマハミュージックジャパン、作業環境の専門家、クラシック音楽の演奏会に精通する医療関係者(感染症専門医、感染管理認定看護師含む)らと、感染リスクを抑えながら音楽活動を再開するためのプロジェクト・チームを結成しました。演奏会中、バックステージ(楽屋など)、練習活動、客席、開演前・休憩時間中・終演後のロビー、会場のお手洗いなどにおける感染リスクを洗い出し、専門家の指導下で感染リスクを低減する方法を考えます。また、楽器演奏や歌唱における飛沫等の飛散に関して、クリーンルームでの厳密な実験も行います。2020年8月初旬までには必要な実験を終え、最終的には、プロフェッショナル・オーケストラや吹奏楽団はもちろん、アマチュアや学校の吹奏楽部など、日本中の音楽を愛する人たちが活動再開していくために必要な提言策定を行います(2020年8月下旬ドラフト公開予定)。提言策定にあたっては、ゼロ・リスクを目指すのではなく、感染リスクの低減を計りながら、音楽性の追求・興行の成立とのバランスを考えた現実的なものを目指します。
本プロジェクトでは、COVID-19に関する取材や飛沫実験など既に行ったNHKに協力を要請しています。また、このプロジェクトの模様は取材され、NHKの番組で放送される予定です。


  • プロジェクト構成員

主催:
クラシック音楽公演運営推進協議会 (構成団体:日本クラシック音楽事業協会/日本オーケストラ連盟/日本演奏連盟/他 全国のクラシック音楽公演を開催する公共・民間ホール)
一般社団法人日本管打・吹奏楽学会

専門家:
林 淑朗 亀田総合病院 集中治療科部長、集中治療専門医
宮内 博幸 産業医科大学 作業環境計測制御学 教授
上原 由紀 感染症専門医
具 芳明 感染症専門医
塚田 訓久 感染症専門医
縣 智香子 東京都看護協会 新型コロナ対策プロジェクト アドバイザー
      NTT東日本関東病院 感染対策推進室 感染管理認定看護師
堀 成美 東京都看護協会 新型コロナ対策プロジェクト アドバイザー

協力:
(株)ヤマハミュージックジャパン
NHK
NHK交響楽団


  • お問い合わせ先

クラシック音楽公演運営推進協議会(一般社団法人日本クラシック音楽事業協会内)   info@classic.or.jp
一般社団法人日本管打・吹奏楽学会
(ホームページ問い合わせフォームから受け付けていますhttp://www.jas-wind.net/contact.html)



クラシック音楽の演奏会において聴衆間や演奏者間にソーシャル・ディスタンスは必要か?

1. 背景
クラシック音楽のコンサートは多数の人が集まるイベントの1つで、新型コロナウィルスと共に生きる時代において公衆衛生の見地からは注意深い開催が求められます。新型コロナウィルスの第一波が過ぎ去った国々でクラシック音楽のコンサートが再開されつつありますが、新型コロナウィルスの感染様式には依然未知の部分も多く、不確定なリスクに対して聴衆間や演奏者間に十分なソーシャル・ディスタンスをとりながら再開しようとする向きが支配的です。しかしながら、このようにソーシャル・ディスタンスを取ることによって、演奏家は他の奏者との意思疎通が難しくなりアンサンブルに支障が出てきます。また、演奏会の主催者にとっては集客が抑えられ興行を成立させることが困難となります。新型コロナウィルスの問題が、今後少なくとも数年間は継続するという見通しを考えると、現在推奨されているソーシャル・ディスタンスをクラシック音楽のコンサートで継続することは極めて困難で非現実的と考えられます。
クラシック音楽のコンサートにおける聴衆は、演奏中無言であるのみならず小さな咳払いですら最大限慎みます。そして、マスク着用も十分遵守できる集団で、それが実行可能な環境にあります。また、日本のクラシック音楽専用ホールは十分な換気性能も有しております。休憩時間中のロビー等での行動には特段の注意が必要ですが、音楽鑑賞をするに際してソーシャル・ディスタンスを維持することには疑問があります。一方、これまでの飛沫等の飛散を視覚化した実験結果からは、奏者間のソーシャル・ディスタンスを縮められる可能性も示唆されています。また、特に管楽器においては、遮蔽物を利用することで飛沫等の飛散を抑制できる可能性があり、それによっても奏者間のソーシャル・ディスタンスを縮められる可能性があります。
これまでの実験では、聴衆に関しては取り扱われてきませんでした。また、演奏時の飛沫発生を観察する実験も視覚的に捉えたものが主流で、視覚的に捉えられない飛沫等の影響は未知でした。視覚的に捉えられない飛沫等の隣の奏者への影響を知るには、パーティクルカウンターという空中の微細飛沫を測定する装置を用いて検証する必要がありますが、コンサートホールなどの通常の環境中には、演奏や咳払いで発生する飛沫等に比べ遥かに多く浮遊する埃が同時に計測されてしまい、通常環境中での実験では結果の解釈が困難です。

今回我々は、下記の2つの疑問に答えるべく実験を行います。
疑問①「クラシック音楽の演奏を聴く人の周囲で、前後左右隣接する席の位置と、前後左右1席離れた席の位置で、飛沫等の測定量に差はあるか?」
疑問②「楽器(各種)演奏者の周囲で、従来の距離で前後左右に隣接する奏者の位置と、ソーシャル・ディスタンスをとった奏者の位置で、飛沫等の測定量に差はあるか?」
これらの実験は大型のクリーンルームにおいて行い、環境中に普通に存在する埃の影響を排除します。

2. 方法
実験場所:新日本空調株式会社 研究所内のクリーンルーム(長野県茅野市)を使用します。
実験日時:2020年7月11日〜13日

被験者:
演奏 プロのオーケストラ奏者が各楽器3人ずつ行います。
聴衆 成人でクラシック音楽の演奏会に慣れた者で行います。
測定機器:パーティクル・カウンターを複数台同時に使用します。
対象楽器:
弦楽器 バイオリン、チェロ
管楽器 フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴット、アルトサクソフォン、ホルン、トランペット、トロンボーン、ユーフォニアム、テューバ
測定及び結果の解析:産業医科大学作業環境計測制御学講座・宮内博幸教授の監修の下、行います。
実験における感染管理:プロジェクト・チームのメンバーである感染症専門医と感染管理認定看護師が指導します。

疑問①に対する実験:聴衆と見立てた被験者を椅子に座らせ、CDでクラシック音楽を再生し、コンサートのときと同じように鑑賞してもらいます。コンサート会場を想定し、被験者と前後左右に接する座席の位置(従来の隣の座席の位置)と、被験者から一席開けた前後左右の座席の位置(ソーシャル・ディスタンスをとった座席の位置)にパーティクルカウンターを設置し、飛沫等の測定を行います。静かに鑑賞する場合のみならず、咳や発声(小声・ブラボー)をした場合さらにマスク着用有り無しの条件でそれぞれ飛沫等を測定します。

疑問②に対する実験:各楽器1人の奏者が演奏を行い、従来の奏者配置で前後左右接する奏者の位置と、シャリテ大学の推奨する前後左右の奏者の位置にパーティクルカウンターを設置し飛沫等の測定を行います。

歌唱における予備実験:8月に歌唱における同様の実験を計画しています。歌唱における予備実験についてもこの機会に行う予定です。

3. 予想される結果と展望
従来の距離とソーシャル・ディスタンスをとった場合で差がなければ、従来の距離で演奏会を行うことを主張する大きな根拠となります。従来の距離で飛沫等がより多く計測された場合、その程度に応じて、異なる対応を考える必要があります。飛沫が検出されない楽器では奏者間の距離を従来通りに縮めることが可能になる一方で、楽器によっては距離を縮めるために飛沫遮蔽物の設置についても提言します。

以上