Y-Classic こども青少年クラシック音楽普及プロジェクト:主催者インタビュー《杉田劇場ひよこ♪コンサート》


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 ◉主催者インタビュー                              
杉田劇場ひよこ♪コンサート
2015年12月10日(木)公演
お話いただいた方:横浜市磯子区民文化センター杉田劇場館長 中村牧様
                                                                             インタビュー日:2015年12月10日(木)
 2005年に開館した磯子区民文化センター 杉田劇場は、地域の人々から愛されるばかりでなく、地域の人たちみずからが劇場の運営とコンテンツに深く関わる公共施設です。
 開館から10年。最初の5年は「区民企画委員会」を組織し、区民が協働する運営の基礎作りを行い、区民の声をダイレクトに反映させる取り組みを展開しました。続く5年は特定非営利活動法人の「チーム杉劇」を立ち上げ、区民が主体となって劇場を切り盛りする仕組みを充実化。地域の人々自らが望み、能動的に関わる文化イベントを開いてきました。今後はさらに、区民が主体となった運営を実現しようとしています。
 杉田劇場が「文化で人をつなぐ」ために行っている事業に、「子ども・子育て支援」「交流」「国際文化発信・アーティスト支援」などがあります。20151210日に取材した「ひよこ♪コンサート」は「子ども・子育て支援」の一環です。劇場の館長でもあり、コンサートにもピアノ奏者として自ら出演する中村牧さんに、このコンサートについてお話を伺いました。

杉田劇場館長の中村牧さん(左)、演出家の並木裕さん(右)


■区民の声から生まれたコンサート■
——「ひよこ♪コンサート」はいつからスタートしたのですか? 
 2006年です。始めたきっかけは区民からの提案でした。杉田劇場が夏祭りを行い、「区民企画委員会」を結成したのですが、その委員の方々から、「劇場に集う子どもたちがこんなにいるのだから、未就学児や赤ちゃんのためのコンサートもやりたい」という声があがったのです。それをぜひ形にしようということで、この「ひよこ♪コンサート」が始まりました。


——何歳くらいのお子さんをターゲットにしていますか?
 当初は幼稚園に通う前の2、3歳のお子さんを想定していました。しかし時代が経つにつれ、働くお母さんが増え、今ではその年代で保育園に行く子が増えました。ですから最近では、保育園に入るもっと前、赤ちゃんのお客さんが増えていますね。入場は0歳から可能です。何歳までという制限はありません。


——杉田劇場では、区民の声を反映させた、区民主体の運営を目指し、実践されていますが、この「ひよこ♪コンサート」については、どのようにして区民の反応を得ているのでしょうか。
 コンサートが終わったあと、私はすぐロビーに出ていますから、お客さんと直接お話することが多いですね。今日もさっそく、「この内容で大人版のコンサートもやってほしい」という方がいましたし、「こんなことをやってほしい」と皆さん気楽に声をかけてくださいます。アンケート用紙を毎回作っているので、「そのこと、ぜひ用紙に書いてくれる?」とお願いすると、書いて提出してくれますね。集まった生の声については、職員みんなで検討します。厳しいお声もいただくこともありますが、上手に形にしていきたいと思っています。場内に用意したオムツ交換のスペースや、ミルク用のお湯の用意なども、そうしたお客さんの声から生まれたサービスです。

この日も終演後にお客さんと館長が談笑されていた




——出演者について教えてください。
 スタート時の2006年から、12月のクリスマスの回はずっとしゅうさえこさんと私とで出演しています。しゅうさんは、NHKの「うたのおねえさん」として活躍されていた方ですから、子どもの心を掴む曲目や立ち位置など、すべて計算された1時間のプログラムを構成してくれます。ステージの照明や装置などは、演出家の並木裕さんが手掛けています。しゅうさんの抱いたイメージを、並木さんや舞台スタッフの皆さんが形にしてくれます。
 クリスマス以外の回は毎回編成が違うのですが、パーカッションやブラスバンドや木管五重奏などのアンサンブルです。内容は朗読劇などを組み合わせ、クラシックだけではなくジャズなども取り入れています。
 出演者は、上手に演奏が出来るというだけの人ではなく、お話ができたり、子どもたちに音楽の楽しさをわかってもらうために工夫ができる方が求められます。音大卒のスタッフがいるので、彼らの人脈を活かすなどして、紹介をベースに出演者を決めています。正直、ギャランティーも人手も限られた中で行っていますので、理解と情熱のある方に出演していただいています。


——館長自らがご出演されているのはユニークですね。
 私自身、ピアノがこの道のスタートですから。しゅうさんとは息が合って楽しいというのもありますし、お客様も喜んでくださいますね。私が弾けば、ピアニストを用意してスケジュールを調整する必要がないので融通が利きますし(笑)。
 

——終演後にお客様に伺ったところ、「ひよこメール倶楽部」のメールマガジンの情報を頼りに来られる方が多いようですね。そのほかにはどのような宣伝をしていますか?
 磯子区内の子育て支援の拠点である施設や保育園などに広報しています。リピーターになっていただいても、お子さんが大きくなると来られなくなってしまいます。でもすぐにまた、新しい方たちが来てくれますね。


——主催者として、公演プログラムには4つの団体の名前があがっていますね。
 はい、「公益財団法人横浜市芸術文化振興財団」というのは、私たち杉田劇場のことです。そして「特定非営利活動法人チーム杉劇」とは、この劇場を区民主体で運営していくために組織された共同事業体で、若い人たちによるNPOです。そして「有限会社アイコニクス」とは舞台装置の会社で、「株式会社ニックサービス共同事業体」は清掃を行ってもらっている会社です。協賛やスポンサーを付けたいという思いはありますが、現行は収支を合わせている状況です。


——ところで杉田劇場では「ひよこ♪コンサート」とは別に、「杉劇リコーダーず」というグループの音楽活動も大きく展開されていますね。先日(125日)、磯子区総合庁舎で行われた「いそご こどもエコフェスタ」でのゲスト公演を聴かせていただきました。名作絵本の「大きな木」による音楽朗読の上演でしたが、小学生とシニア世代が一緒にリコーダーでアンサンブルを楽しんでいるのが印象的でした。


音楽朗読劇『おおきな木』を上演する杉劇リコーダーず(2015125日)

 はい。8歳から80代まで、46名からなる「杉劇リコーダーず」も、区民からの企画提案により20067月に結成されました。世代間の垣根を取り払い、子どもと団塊の世代とが一緒になって活動することで、温かな交流がなされるコミュニティーが生まれています。彼ら劇場での定期演奏会以外にも、地域の商店街やお祭りのイベントなどで演奏しています。
 文化の力で地域を活性化させ、町をつくり、人をつくることが、杉劇のような小さな劇場にできること、公共施設の役割だと思っていますので、これからも充実した取り組みを行って行きたいです。