Y-Classic こども青少年クラシック音楽普及プロジェクト:公演レポート《東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」》


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 公演レポート◉                                 
東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」
20157月4日(土)公演

〜本格的なコンサート体験を子どもたちに伝える、
参加型企画も充実した「定期演奏会」〜
                                          
■「定期演奏会」の概要
  「こども定期演奏会」は21世紀の子どもの情操を養うため、年に4回定期的にコンサートホールでオーケストラの生演奏を聴くことができるようにと始められたコンサートです。2002年に東京交響楽団がサントリーホールに提案したのがはじまりで、現在はバークレイズ証券株式会社がスポンサーとなり、東京交響楽団とサントリーホールとの共催となっています。バークレイズは300年以上も歴史を持つ金融グループであり、芸術活動を応援することで文化の発展とコミュニティーの成長を支援しています。チケットは全席指定で、1回券は3000円、年間会員券は4公演で10000円です。
 
 コンサートには毎回参加型の企画も盛り込まれており、7月は「こどもレセプショニスト」でしたが、「楽器ワンダーランド」、「こども奏者」による東京交響楽団との共演、指揮者との懇親会というように、参加型企画の内容は毎回変わります。参加者は年間会員券の購入者から募集されます。またチラシの絵や毎年のテーマ曲も子どもたちから募集をしています。

 2015年度のテーマは〈オーケストラ・タイムマシーン〉。バロック時代からはじまり、ロマン派、近現代の音楽と、全4回のコンサートで歴史を追ってオーケストラ作品を鑑賞できるようになっています。2013年度までは東京交響楽団の名誉客演指揮者である大友直人氏を中心としたコンサートでしたが、現在は毎回替わる4人の指揮者とアナウンサーのMCによってコンサートが進められ、お話を加えながらクラシック音楽を身近に感じられるように工夫がなされています。

今回取材した「第54回こども定期演奏会」は、指揮は垣内悠希氏、ソリストが金子三勇士氏、オーケストラは東京交響楽団による演奏、テレビ朝日アナウンサーの坪井直樹氏の司会で行われました。





■第54回定期演奏会の様子をレポート!
  この日の参加型企画は「こどもレセプショニスト」でした。9名のレセプショニストが制服を着て開場の際にお出迎えをし、開場10分前のプレトークで注意事項のアナウンスを一人1文ずつ舞台上から行いました。そのプレトークでは、レセプショニスト(ご案内係)という仕事についての説明もありました。こどもレセプショニストたちは講習を受けてから本番に挑んだようです。
第54回定期演奏会では、こどもの参加型企画として、『こどもレセプショニスト』を実施。
サントリーホールのレセプショニストの制服に身を包んだこどもたちが、会場のご挨拶、入場のお手伝いを体験した

 
 いよいよ本番が始まります。まず「こども定期演奏会2015」のテーマ曲から始まりました。これは子どもたちの応募作品の中から選ばれた作品をプロの作曲家によってオーケストレーションされたものです。その後、MCの坪井さんが登場し、コンサートの説明に加え、ロマン派に関する説明をします。ロマン派のキーワードである「疾風怒濤」という言葉や時代背景などについても言及していました。子どもたちは知らない言葉が出てきても、理解しようと親御さんと一緒にプログラム・ノートを覗きながらお話を聞いていました。続いて、オペラ《魔弾の射手》序曲が演奏され、指揮者へのインタビューに移ります。垣内氏が指揮者を目指すきっかけになった、カルロス・クライバー指揮、《ばらの騎士》のコンサートでの「音楽って素晴らしい!」という感動体験を話しました。次はソリストの金子氏を迎えて、ピアノ協奏曲第1番変ホ長調から第234楽章の演奏です。演奏後、金子氏は子どもたちに向けたメッセージを語りました。6歳でハンガリーに独りで留学した話に親御さんは驚き、子どもたちも真剣に聞いていました。ここで一旦コンサートは15分の休憩に入ります。

後半は、序曲《フィンガルの洞窟》の演奏から始まりました。休憩を終えた子どもたちは、飽きることなく演奏に集中し、中には指をさしながら親御さんに質問をする子どももいました。プログラム最後の曲、交響曲第7番ロ短調「未完成」の第1楽章の説明では、司会の坪井さんから、なぜ「未完成」なのかという3択クイズが出されました。子どもたちは元気よく手をあげながらクイズに参加していました。「未完成」の演奏が終わると坪井さんから挨拶があり、アンコールに軍隊行進曲の演奏でコンサートが終わりました




■「こども定期演奏会」の特徴
こども定期演奏会は音楽だけでなくコンサートのシステムそのものにも焦点を当てているのが大きな特徴です。コンサートは1年以上前から企画を始め、参加型企画を決定しています。スポンサーの存在やチケット価格の設定、あるいは楽譜を管理する人や奏者のスケジュールを管理する人など、他にもたくさんの人が働いて、ようやく成り立つコンサートのシステムを子ども達に理解してもらえるように、プログラムに解説を載せるなどの工夫もしています。

「文化庁平成26年度戦略的芸術文化創造推進事業」において東京交響楽団のコンサート来場者および定期会員向けアンケートが201496日に行われました。その調査結果によると「こども定期」の来場理由は、オーケストラの生演奏を子どもに聴かせたいという理由が圧倒的に多く、過半数を超えています。毎年来ているからという理由が20%、子どもが楽しめるようにという理由が10%ほどあります。また1回券と年間会員券と2種類ありますが、同様の調査結果によると一回券は口コミで広まったものが圧倒的に多く、年間会員券は何年間か継続して購入されているようです。


■まとめとして
 「こども定期演奏会」は、子どもを「小さい大人」としてコンサートホールに定期的に迎え入れ、集中して音楽を楽しむ姿勢を養うコンサートです。音楽の生まれた国や時代背景などにも着眼させ、クラシック音楽の持つアカデミックな要素をわかりやすく説明しながら、音楽が楽しくなるような聴き方を子どもたちに示しています。参加型企画も充実しており、音楽に関係した特別な体験を通じて、子どもたちの成長を後押ししています。



主催:公益財団法人 東京交響楽団、サントリーホール
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)
特別協賛:バークレイズ証券株式会社
後援:港区教育委員会、東京都小学校音楽教育研究会